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2016.10.15 スタッフブログ

私のエバーグリーン

天高く、馬肥ゆる季節のお出かけには愛読書が必須の浅間です。

話題がない時はいつも読書感想文になってしまいますが、

それくらい私にとって本の世界は馴染み深いものなのだろうと感じています。

自分の中でいつまでも色褪せない不朽の名作(エバーグリーン)は、

漫画、音楽、小説とジャンル分けしても数えきれないほどありますが、

その内のひとつ、『贅沢貧乏(森茉莉著)』をご紹介させてください。

12篇のエッセイから成るこの一冊の作者は、森鴎外の娘である森茉莉です。

若い時に結婚・離婚という経験をしながらも、彼女の中身はいつまでも

甘ったれで夢想家、食い意地の張った少女そのものでした。

軍医の父の元で召使いを従えた幼少期を送ったものの、

晩年はうまい小説がなかなか書けず生活費が稼げない貧乏な現実の一方、

空想の中では贅沢な暮らしをしているという独特の思考。

硝子の空き瓶を眺めては透明な世界に陶酔し、石鹸の柔らかく

くすんだ色合いに美を見出す彼女の部屋は散らかり放題、

紅茶一杯を注文して朝から晩まで喫茶店で粘って

「毎日千円降ってこないものか」と考えを巡らせるほど。

しかし、作品を通して眺めるそれらの世界は本当に美しく、

彼女にとって小さなアパートの部屋さえもお城だったことを感じさせられます。

室生犀星、三島由紀夫という素晴らしい文筆家たちと交流し、

翻訳まで手掛けていた女流作家の本を一冊携えて、

喫茶店で空想に耽ってみるのはいかがでしょうか。